大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)28414号・平11年(ワ)25948号 判決

主文

一  原告(反訴被告)の請求を棄却する。

二  反訴原告(被告)の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを五分し、その四を原告(反訴被告)の負担とし、余を被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告(反訴原告。以下「被告」という。)は、原告(反訴被告。以下「原告」という。)に対し、金二三八九万六八五三円及びこれに対する平成一〇年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

三  反訴請求の趣旨

1  原告は、被告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成一一年一一月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

1(一)  原告と訴外姜弘(以下「姜」という。)は、平成七年四月一八日、姜が原告に対し、原告の語学講師および国際関係教育、東南アジア情勢の分析等の労務に服することを約し、原告が姜に対し賃金を支払うとの雇用契約を締結した。

(二)  被告および訴外李鉄克(以下「李」という。)の両名は、平成七年四月一八日、原告に対し、原告が同日前記のとおり姜を雇い入れるに際し、姜の身元保証人となり、姜が故意又は過失により原告会社に対して損害を与えたときは、被告及び李は連帯して原告の被った損害を賠償する責任を負担する旨を約し、期間を五年と定めて、原告との間で身元保証契約を締結した。

2(一)  原告は、平成一〇年四月、中国北京市内に原告の事務所を開設することを具体的に計画し、そのころ、姜を北京市内に赴任させ、右北京事務所開設準備の業務に従事させた。

(二)  原告は北京市内に駐在中の姜に対し、

(1)  平成一〇年七月二一日に金二〇〇〇万円を

(2)  平成一〇年七月二四日に金一六五万六八五三円を

(3)  平成一〇年七月二七日に金二〇万円を

それぞれ中国銀行北京市前門支店姜の個人名義の預金口座に振込送金した。

(三)  右金員は原告が姜に対し右北京事務所開設の準備資金に充てさせるため送金したものであるが、姜は、原告が右合計二一八五万六八五三円をそれぞれ受け取り、これを原告のために預かり保管中、いずれもその頃これを原告に断りなく自己のためにその全部を着服して横領した。

(四)  さらに、姜は、平成一〇年九月ころ、日本に留学を希望する中国在住の中国人学生三名から、それぞれ留学費用として原告の経営する学校の入学金、授業料、教材費等一人あたり金六八万円計二〇四万円の支払を受けて、これを原告のために預かり保管中、そのころ、原告に断りなく自己のためにその全部を着服して横領した。

3  よって、原告は、右身元保証契約に基づいて、被告に対し、前記姜の着服横領行為により原告会社の被った損害金合計金二三八九万六八五三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年一二月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1(一)  本訴請求原因1(一)は否認する。姜はタイケン教育総合学園と雇用契約を締結したのであり、原告との間に雇用契約を締結したものではない。

(二)  本訴請求原因1(二)は否認する。被告はタイケン教育総合学園に対する身元保証書に署名捺印したことはあるが、原告が姜を雇用するにあたり原告との間で身元保証契約を締結したことはない。また、被告とタイケン総合学園との間の身元保証契約は期間の定めのないものであり、原告主張の姜の不法行為の日である平成一〇年七月から九月ころには期間満了で終了していた。

2  本訴請求原因2(一)、(二)は認める。(三)は否認する。(四)の内、姜が、平成一〇年九月ころ、日本に留学を希望する中国在住の中国人学生三名から、それぞれ留学費用として原告の経営する学校の入学金、授業料、教材費等一人あたり金六八万円計二〇四万円の支払を受けて、これを原告のために預かっていたことは認め、その余は否認する。

三  反訴請求原因

1  原告は、株式会社である。

2  平成一〇年一二月一六日、原告は被告に対して損害賠償請求事件(本件本訴事件)を提起した。本件本訴事件は、姜が原告を雇用主とする雇用契約を締結するにあたり、被告が姜のために原告と身元保証契約を締結したところ、姜が平成一〇年七月二一日以降、横領行為を行ったことによって原告が被った損害の賠償を求めて提起されたものである。

3  しかし、本件本訴請求は、次のとおり、法律上事実上の理由がなかったことが明らかであり、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものである。原告はそれを知りながらまたは通常人ならば容易に知り得たにもかかわらずあえて訴訟を提起してこれを継続した。

(一) 身元保証に関する法律によれば、期間の定めのない身元保証契約は三年間効力を有するだけである(同法一条)。ところで、被告が姜の雇用に際して締結した身元保証契約は甲一号証に明らかなとおり契約期間の定めがないから、その効力は、原告の主張によっても、平成七年四月一八日から三年間が経過した平成一〇年四月一七日をもってその効力がないことが明白である。そして、原告の本訴請求は、右の有効期間が経過した後の平成一〇年七月二一日以降の姜の行為なるものを理由としているものであり、法律上の理由がないことが明らかである。

また、原告は本件の身元保証に期間の定めがないことがが明らかになった後も、本件本訴請求を取り下げることをせずこれを維持し、姜との雇用契約が五年間の雇用期間を定めるものであったから本件身元保証にも五年間の定めがあったと訴訟の中途から主張し始めた。しかしこれが強弁にすぎないことは関係書証の記載から明らかであり、本件の訴訟の経緯をみれば、右主張は本件本訴請求を維持するためのみになされたことは明らかである。

(二) また、本訴において問題となっている姜の北京事務所における行為は、取締役としての行為であって、当該身元保証契約の効力の及ぶ被雇用者としての行為ではなかったことも明らかである。

(三) また、そもそも姜に不法行為たる横領行為が存在していない。平成一〇年七月に三回にわたって姜の開設した個人口座に送金された金員は、原告が任意に姜に給付したものであり、それを原告が携わっている合弁学校の追加資金であったと主張し、あたかも訴外姜に横領行為があったもののごとく偽った。

4  原告の本件本訴請求により、被告に以下のような損害が生じた。

(一) 右訴えに対して応訴をすべく被告は、訴訟代理人を選任することになり、その着手金として三〇万円を支払い、本件落着時にさらに七〇万円を右訴訟代理人に支払うことを余儀なくされた。

(二) 被告は、本件に応訴するために、打ち合わせや姜、李などから事情聴取を行い、その帰趨に神経を用いるなどの精神的損害を負い、その損害額は金一〇〇万円をくだらない。

5  よって、被告は原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金二〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成一一年一一月一九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

四  反訴請求原因に対する認否

1  反訴請求原因1および2は認める。

2  反訴請求原因3は否認する。

3  反訴請求原因4は不知。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。

理由

一  本訴請求について

1  請求原因1について

(一)  証拠(甲一、二の一及び二、一〇、乙二、四、二〇原告代表者)によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1)  原告は、昭和五二年二月二一日、体育健康クラブ株式会社の名称で設立され、昭和五三年一二月一二日(同月一八日登記)タイケン株式会社に商号変更された会社である。同社の目的は、平成九年一二月一日変更されたところによれば、楽器・玩具および運動具の製造販売、日本語学校の経営等であり、同社の本店所在地は平成一一年三月三一日まで板橋区成増一-三一-一〇であった。現在の原告代表者である柴岡三千夫(以下「柴岡」という。)は平成一〇年五月二九日から同年一〇月一三日まで及び平成一〇年一一月二四日以降同社の代表取締役であり、姜は平成一〇年五月二九日から同社の取締役であったが同年一〇月一〇日右取締役を辞任した。

(2)  柴岡は、「タイケン教育総合学園」という名称でパンフレットを作成して広報活動を行い、右学園の理事長と称していた。右パンフレットによると、タイケン教育総合学園は日本ウエルネススポーツ学院、日本動植環境カレッジ、タイケン・ケンシントン大学等の教育機関を総称するものであり、教職員・講師の欄に、国際関係論の講師として姜が写真と共に掲載され、学園本部は板橋区成増一-三一-一〇大東京火災保険ビルと記載されている。なお、右タイケン教育総合学園は、法人格を有するものではない。

(3)  姜は、平成七年四月一四日ころ新聞の求人広告を見てタイケン教育総合学園に電話し、同月一七日ころ柴岡の面接を受けた。その際、柴岡は姜に対し、誓約書(甲二の一)に署名捺印を求め、身元保証書(甲一)に身元保証人の署名捺印を得て提出するように指示し、姜の勤務開始日は同月一八日とし、実際に、姜は同月一八日から練馬区高松五-一一-二六にあるタイケン・ケンシントン大学で教員として勤務を開始した。姜は、平成七年五月一七日ころまでに、右誓約書に自ら署名捺印し、身元保証書に李及び被告の署名捺印を得て、これらをタイケン教育総合学園に提出した。なお、右身元保証書の作成に関して、李及び被告は、柴岡ないし宛先であるタイケン総合学園の学園長柴岡ひろみとは会ったことや話をしたことはない。

右誓約書は、タイケン教育総合学園・学園長柴岡ひろみ宛ての書面で、「このたび貴学職員として入社の上は下記の事項を誓約し、厳守履行いたします。」と記載され、貴学園の職員として体面を汚すような行為はしないこと、貴学園の就業規則及び服務に関する諸規則に従い誠実に勤務すること等が記載されている。

また、右身元保証書は、タイケン総合学園・学園長柴岡ひろみ宛ての書面で、姜が「貴社に採用されるについては、身元保証人として会社の就業規則を遵守して、忠実に勤務することを保証いたします。万一本人がこれに悖る行為をなし、その他規則を乱し、故意又は、重大な過失によって貴社に損害をおかけしたときは、本人をしてその責任をとらしめると共に私等は、連帯してその損害を賠償する責任を負担することを確約し、その証として本書を差し入れます。」と記載され、姜、李及び被告の署名捺印がなされている。

(4)  同年六月三〇日、姜は、「雇用契約書」に署名捺印して、原告に提出した。

右雇用契約書は、雇用者を原告、労働者を姜とするものであり、「下記労働条件で契約します。」と記載され、雇用の期間・平成七年七月一日から平成一二年六月三〇日まで、就業の場所・板橋区成増一-三一-一〇、大東京火災保険ビル、仕事の内容・中国語の翻訳・通訳、中国情勢の分析、アジア文化、国際理解教育、就業の時間・午前八時から午後五時半まで、賃金・基本給二〇万五〇〇〇円、役職業務手当五万円、住宅手当七万五〇〇〇円等と記載されている。

原告は板橋区成増にある原告会社に国際部を新設し、姜は、同年七月一日から右国際部に勤務するようになった。

(二)  原告は、前記身元保証書(甲一)に被告が署名捺印しこれを提出したことで締結された身元保証契約(以下「本件身元保証契約」という。)につき、<1>平成七年四月一七日ころ締結された雇用契約は、原告と姜との間で、試用期間を三か月として締結された、<2>同年六月三〇日ころ右試用期間が終了したので、原告と姜は同日ころ、雇用期間を五年間として本契約を締結した、したがって、<3>本件身元保証契約は、原告と姜との間の雇用契約を対象とするものであり、かつ雇用契約が期間を五年とするので身元保証契約の期間も五年間である、<4>柴岡は姜に対して、<1>及び<3>の点を身元保証人に説明して署名捺印を得るように伝え、姜は右説明をした上で身元保証人の署名捺印を得たと言っていたので、被告はこれを認識した上で署名捺印したものである旨主張し、原告代表者は、本人尋問及び陳述書において、これに沿う供述をする。

(三)  確かに、身元保証契約において身元本人の勤め先やその従事すべき業務の種類、内容にある程度の相違があっても、その勤め先や従事すべき業務の種類、内容に実質的な同一性があるときは、身元保証人はその責任を負うと解することができる場合もあるというべきであり、また、身元保証契約自体には期間の定めがなくても、保証の対象である雇用契約に期間の定めがあり、身元保証人がこれを認識しているときは、身元保証契約についても同一の期間をもって存続期間を定めたものと解することができる場合もあるというべきである。

しかしながら、前記(一)認定の事実並びに前記(二)の<1>、<2>及び<4>については原告代表者の供述があるのみで他に客観的な証拠はないこと(甲三号証については、前記(一)認定の事実及び乙二〇号証に照らして採用しない。)、姜は陳述書(乙一、二〇)においてこれを否定し、被告本人も本人尋問及び陳述書(乙一九)においてこれを否定していることに照らすと、本件身元保証契約は、姜がタイケン総合学園において教員の業務に従事するものとして、被告とタイケン総合学園との間で締結されたところ、姜が原告において中国情勢の分析等の業務に従事することとの間に実質的な同一性があるということはできず、また、身元保証人である被告において、保証の対象が右姜と原告との間の雇用契約であり期間が五年間であることを認識していたということもできない。

(四)  そうすると、本件身元保証契約は期間の定めがないから、身元保証ニ関スル法律第一条により、遅くとも右契約が成立した平成七年五月一七日ころから三年間に限り有効であるところ、原告はその後である平成一〇年七月二一日以降の姜の行為につき身元保証人である被告に対して責任を追求していることは当裁判所に顕著である。

2  以上によれば、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく、理由がない。

二  反訴請求について

1  反訴請求原因1、2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  反訴請求原因3について

(一)  本来民事訴訟の提起は、私人に認められた訴権の行使であり、その限りでは適法な権利の行使であるから、原則として不法行為を構成するものではなく、それが不法行為となるためには、原告が不法目的ないし主観的害意をもっているか、重大な不注意により、実体的理由がないことが明らかであるのに、これに気づかず安易に訴えを提起した場合や無益な訴訟を提起した場合に限られると解するべきである。

(二)  反訴請求原因3(一)について検討する。

原告が姜が不法行為をなしたと主張する平成一〇年七月から九月にかけての時期に、原告被告間において身元保証契約が存続していたか否かについての判断は前記一、1説示のとおりである。

被告は、身元保証契約書(甲一)に契約期間の定めがないから本件身元保証契約に期間の定めがないことは明らかであり、また、姜との雇用契約の期間が五年間であるから本件身元保証契約の期間も五年間であるとの原告の主張は関係書証の記載から強弁にすぎないことは明らかであると主張する。

しかしながら、身元保証契約自体には期間の定めがなくても、保証の対象である雇用契約に期間の定めがあり、身元保証人がこれを認識しているときは、身元保証契約についても同一の期間をもって存続期間を定めたものと解することができる場合もあることは、前記一、1説示のとおりであるから、前記原告の主張が、不法な目的に基づくものないし重大な不注意により実体的理由がないことが明らかであるのに、これに気づかず安易に訴えを提起した場合や無益な訴訟を提起した場合にあたるということはできない。

(三)  反訴請求原因3(二)について検討する。

原告は姜の不法行為として平成一〇年七月ころから九月ころの横領行為を主張するところ、姜は、平成一〇年五月二九日から同年一〇月一〇日までの間原告の取締役の地位にあったことは前記一、1、(一)認定のとおりである。そして、被告は、本訴において問題となっている姜の北京事務所における行為は取締役としての行為であって、当該身元保証契約の効力の及ぶ被雇用者としての行為でないことは明らかであると主張する。

確かに、一般に身元保証契約は使用者の指揮命令を受け、その監督のもとに労務に服する被雇用者の行為を対象とするものであるから、使用者である原告の取締役としての行為については、身元保証契約の適用を受けないというべきである。しかしながら、右の点については実質的に使用従属関係があれば足りると解するべきである。

姜は平成一〇年七月ころから九月ころの間原告との間の雇用契約に基づき雇用されていたことは前記認定のとおりであるから、この時期姜は取締役としての地位と被雇用者としての地位が併存していたというべきである。そして、証拠(甲四、一〇、一一、乙九、二〇、二四、原告代表者)によれば、北京事務所における姜の業務は、首都師範大学との合弁学校の財政改革、合弁学校の院長の指導、NEO外語学院への留学生募集というものであったこと、実際にも姜は原告代表者である柴岡の指揮命令を受けて北京事務所における業務を遂行していた側面が窺われることが認められ、以上の事実によれば、北京事務所における姜の行為が取締役としての行為であったことが明らかであるということはできず、原告の主張がこの点において、不法目的に基づくものないし重大な不注意により実体的理由がないことが明らかであるのに、これに気づかず安易に訴えを提起した場合や無益な訴訟を提起した場合にあたるということはできない。

(四)  反訴請求原因3(三)について検討する。

(1)  被告は、そもそも姜には不法行為たる横領行為が存在しないことは明らかであると主張する。

(2)  以下の事実は当事者間に争いがない。

<1> 原告は、平成一〇年四月ころ、中国北京市内に原告の事務所を開設することを具体的に計画し、そのころ、姜を北京市内に赴任させ、右北京事務所開設準備の業務に従事させた。

<2> 原告は北京市内に駐在中の姜に対し、平成一〇年七月二一日に金二〇〇〇万円を、平成一〇年七月二四日に金一六五万六八五三円を、平成一〇年七月二七日に金二〇万円をそれぞれ中国銀行北京市前門支店姜の個人名義の預金口座に振込送金した。

<3> 姜は、平成一〇年九月ころ、日本に留学を希望する中国在住の中国人学生三名から、それぞれ留学費用として原告の経営する学校の入学金、授業料、教材費等一人あたり金六八万円計二〇四万円の支払を受けて、これを原告のために預かっていた。

(3)  被告は、<1>平成一〇年七月二一日に送金された前記(2) <2>の二〇〇〇万円につき、原告代表者が北京市教育委員会の認可による首都師範大学との合併学校「首都師範大学・TAIKEN国際文化学院」(以下「合併学校」という。)の総出資金額四五〇〇万円の日本側の負担部分七〇パーセントに不足する金額二〇〇〇万円を追加出資するために原告が姜に送金したものである旨供述しているが、首都師範大学・タイケン国際文化学院理事会議事録(乙九・同年七月二九日付)、北京市教育委員会の行政指導(乙一〇・同年八月一五日付)、原告代表者の首都師範大学校長張沢膏への手紙(乙一一・同年八月二一日付)、右張の原告代表者への手紙(乙一二・同年八月二五日付)、原告代表者の右張への手紙(乙一三・同年八月二六日付)等の事実経過があった旨、<2>右送金は「タイケン教育総合学園理事長柴岡」から姜個人の口座に対するものであるが(甲六)、当時合併学校には銀行口座があり合併学校の公金については右口座が利用されていた旨、<3>原告代表者が姜を同年九月二〇日付で解雇したと供述している点について、前記認定のとおり姜はその後も取締役であり同年一〇月一〇日取締役を辞任しており、原告は同年一〇月七日ころまで姜を北京事務所の業務に従事させ、かつ、原告代表者は同日姜が横領行為を行った事実がないとの手紙を同事務所に送った旨(乙一五)、<4>右二〇〇〇万円は原告が姜に対する報酬として支給したものである旨、<5>前記(2) <2>のその余の金員は、姜は北京事務所のために相当な金額を立替えて支払ったが(乙二七ないし三八)、原告が右金員を返済したものである旨主張する。

確かに、前記挙示の各証拠によれば、前記の内、<1>、<2>前段、<3>、<5>前段の事実が認められる。

しかしながら、<2>後段、<4>、<5>後段の事実については、これを認めるに足りる客観的証拠はなく、いずれも姜作成の陳述書(乙一、二〇、二四)に依拠するものであるというべきであり、前記(2) 認定の事実及び姜に対する反対尋問がなされていないことを併せて考慮すると、これをもって直ちに、この点に関する原告の主張が、不法目的に基づくものないし重大な不注意により実体的理由がないことが明らかであるのに、これに気づかず安易に訴えを提起した場合や無益な訴訟を提起した場合にあたるということはできない。

3  そうすると、反訴請求はその余について判断するまでもなく理由がない。

三  結論

以上によれば、原告の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六四条、六二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 草野真人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!